Release Interview

結成から15年、メジャー1stアルバムリリースを発表したw.o.d.
出会い、ルーツ、初ライブ、上京、楽曲の変遷……秘蔵エピソードも交えながらバンドの軌跡に迫るロングインタビュー

Episode 3:『BLEACH』起用以降の新フェーズ 家族との交流も

Interviewer:信太卓実(Real Sound)
Photographer:森山将人

Episode 2ではバンド同士の繋がりや意外な再会エピソードなども伺いましたが、そういえばサイトウさんのお母さん、よくライブにいらしてますよね?

サイトウタクヤ(以下、サイトウ):そうですね。ツアーファイナルは大体来てくれるし、こないだの恵比寿LIQUIDROOMのライブ(『w.o.d. presents “TOUCH THE PINK MOON”』)の時とかも夜中まで打ち上げに参加してました(笑)。

Ken Mackay(以下、Ken):学生時代からよく来てたよね。名物お母さん。

サイトウ:俺らと対バンするバンドのこともどんどん好きになってて。地元(兵庫)にいるんですけど、東京とか名古屋でも、暇さえあればいろんなライブに行ってますね。友達のバンドマンから、おかんとのツーショットがたまに送られてきたりするんですよ。「お前のおかん、ライブ来てくれたで」って。めっちゃおもろいけど、なんて反応すればいいの?(笑)。

(笑)。

中島元良(以下、元良):サイトウさんの実家に泊まらせてもらった時、窓際に(両親の)写真が飾ってあって。サイトウさんのお父さんは寡黙そうな人で、その横にお母さんが腕組んで写ってたんですけど、若おとんと若おかんの色褪せた写真が素敵すぎて、俺ちょっと泣いたもん(笑)。しかも「昨日の余り物で悪いけど」って、刺身を漬けにした海鮮丼みたいなヤツを出してくれて、それがめちゃくちゃ美味しくてびっくりした。どうやったらこんなにお米を美味しく炊けるんだろうと思って……聞いてみたら、ただ本当に丁寧にやってるだけっていう(笑)。

サイトウ:俺の家、めっちゃ“実家”なんですよ。「実家ってああいう感じやな」って思い浮かべる通りの実家です(笑)。おかんはおかんやし、おとんはおとん。

素敵ですね。

元良:Kenさん家に泊まったこともあって。深夜2時くらいにシャワー浴びて、布団敷いて寝かせてもらってたら、陽が上り始めた朝6時くらいに、いきなりKenさんのお父さんが「VIVID」のイントロのベースラインを歌いながら部屋に入ってきて(笑)。カーテンをシャッと開けて、「ビューティフル!」「ナイスデイ!」って。

一同:ははははは!

サイトウ:スーパーバイタリティお父さんやからな。

元良:まだ俺ら3〜4時間ぐらいしか寝てなかったのに(笑)。

(笑)。Kenさんのお父さんは出身もニュージーランドですか。

Ken:もともとスコットランド生まれで、小さい頃にニュージーランドに行って育ったみたいです。

サイトウ:自然を愛する男やもんね。

Ken:うん、めっちゃ自然が好きだし、俺もそうです。北海道とか行くと、ニュージーランドとちょっと似てるから落ち着きますね。今うちの両親は山を開拓してるんですよ。山を買って自給自足で生きるみたいな。

すごいですね。

サイトウ:中学の頃とかによく(バンドの)練習してた懐かしの実家はもう存在しないの?

Ken:そこはもうなくて。

サイトウ:完全に山に移住した?(笑)

Ken:うん。

サイトウ:俺も手伝いに行ったりしてたんですけど、昔からちょっとずつ山を整えてたよね。今はユンボとかを操作しながら、掘って、池を作って、鯉を育てて、養蜂して、野菜を育てて……めっちゃ開拓してる。

元良:いいなあ、憧れる。俺も1回行きたい。

Ken:まだ行ったことないよね。

サイトウ:行こう! 朝早いよ!(笑)

Ken:4時とか5時起き。

元良:それもいいな。みんなで火を囲み、陽が落ちたら寝て、陽が昇れば起きて……をやりたい!

そういうKenさんの生い立ちって、音楽に反映されてる部分もありそうですね。

サイトウ:俺はめっちゃ感じますね。良くも悪くも大雑把、でも性格としては繊細なんですよ。そういうアンビバレントさが“自然”って感じ。自然って雄大かつ繊細じゃないですか。そこが不思議で。

元良:手が届かないところにあるものを無理に取ろうとしない。落ちてくるのを待つみたいなところがあるよね。

サイトウ:そうそう!

Ken:自分ではよくわからないですけどね(笑)。小さい頃からニュージーランドで育ってきたことが関係しているとは思うんですけど。

サイトウ:これめっちゃおもろいんですけど、同じ楽器を演奏すると、それぞれの個性がわかるんですよ。タンバリンで同じフレーズを叩くだけでも、3人とも全然違ってて。そのタイム感がKenは一番アバウトで、ラフなんですよね。それがハマる時もあるから、実際にKenが叩いてる曲もあるんですけど。

Ken:「煙たい部屋」とかね。

Kenさんが醸し出すダンスミュージックやヒップホップに裏打ちされたグルーヴ感が、w.o.d.のサウンドをより現代的にしていると思うんですけど、音楽シーン全体がミニマルな音像に寄りつつあった中で、Kenさんのベースはむしろ音がデカくて、ドーンと開けた感じがあって。そこはやっぱりライフスタイルゆえだったのかなって思います。

サイトウ:そんな気がします。

Ken:1st〜2ndアルバム(『webbing off duckling』〜『1994』)くらいまではがむしゃらでしたし、ピック弾きを始めたばかりで慣れてない部分もあったから。特に1stアルバムの音源を聴き返すとめちゃくちゃ下手やし、今だったらこれじゃ出せないなって思う(笑)。でもそこが良さだったりもするので。あと、振り返るとトシさん(吉岡俊一/1st〜3rdアルバムまでのプロデューサー)の影響も大きい気がする。甘い部分をちゃんと指摘して厳しく言ってくれたおかげで、今の自分がある気がしていて。やっぱりそういう人は大事なんだと思いました。

サイトウさんから見た元良さんのドラマーとしての個性は?

サイトウ:器用ではないけど、嘘がなくて、まっすぐ「こう!」っていう感じ。ホンマにこのままの元良くんが叩いてるドラムなんやなって思います。

まっすぐさは3人の共通点な気がしますね。今出せる一番いいストレートを常に磨いているイメージがあって。

サイトウ:そうですね。たぶんそういうものに感動してきたんやと思います。変化球もやろうと思えばできるかもしれへんけど、ど真ん中のストレートが弱くなるくらいなら、あまりやりたくないというか。そこは捨てずに行きたいよね。

特に「STARS」は“w.o.d.のストレート”の傑作だと思います。初のアニメタイアップ曲として昨年『BLEACH 千年血戦篇-訣別譚-』(テレビ東京系)オープニングテーマとなり、『BLEACH』に寄り添いながらもw.o.d.の核心をしっかり射抜いた曲になっていて。バンドの間口も広がったと思いますけど、「STARS」はw.o.d.にとってどんな曲ですか。

サイトウ:バンドとして、もっと広い範囲に向けて何かをやっていけたらいいよねって話している時にタイアップが決まったので。状況的にもいろいろ変わった気がするし、良かったなと思います。もともと『BLEACH』ど真ん中世代で大好きな作品でしたし、しかも自分たちがやってきたことを何も変えずに曲を作れたのはデカかったなと。「My Generation」みたいに新しいことをどんどんやっていく曲とはまた違って、あえてw.o.d.っぽく作ったのが「STARS」やったけど、それもまた良かったんですよね。そういう機会でもないと、すでに自分たちがやってきたことをもう1回掘り起こそうという気になれへんというか。+αの新しいことをやっていくタイミングで、むしろ「w.o.d.らしさってこういうことやな」と再認識できた曲でした。

Ken:「STARS」がなかったら、その後作る曲も結構変わってたかもね。

元良:歌詞がめっちゃ『BLEACH』なんだけど、ちゃんとサイトウさんでもあるなって。アニメのために作られてるけど、そのアーティストの色もしっかり出ててほしいから。アニソンとして100点満点でしたね、本当に。

それは演奏面でも言えるなと思っていて。さっきのタンバリンの話にも通じそうですけど、これだけストレートなギターロックをw.o.d.が演奏すると、むしろリズム隊の個性が前面に出てくるんだなと思いました。

元良:聴いてくれた人にどこまでそう思ってもらえるかわからないけど、嬉しいです。

サイトウ:みんなちょっとずつひねくれてるし、長く聴ける曲にしようという意識もいつもあるから、1フレーズごとの音作りがオルタナっぽい方向に行くんですよね。確かにパッと聴いたらストレートなロックだけど、随所にそういう要素が入ってます。

それを経て、来るニューアルバム『あい』からの先行配信曲「エンドレス・リピート」が出ました。新しいw.o.d.を象徴するような曲ですけど、皆さんの手応えはいかがですか。

サイトウ:前のアルバム(『感情』)から「My Generation」を経た今のモードが出ているなっていうのが一番。あと「My Generation」もそうやったんですけど、「最近こういう曲って意外とないよな。面白いんじゃない?」という気持ちもあります。

Ken:結構攻めていると思うし、不安というか期待というか、どうなるかわからないワクワク感がありますね。

元良:ライブでどうなるか楽しみだよね。

サイトウ:「これが広がっていろんな人が聴いたら面白そうやな」っていうのは曲を出す上での1つの指針だったよね。「STARS」ともちょっと違う。ある程度広がっていくのが見える状態で作るというよりは、「俺たちはカッコいいと思ってるけど、どう?」って投げかけている感じの曲です。ダンスミュージック的な意図もあるんですけど、最終的にはサイケデリックなイメージの曲かな。プロデュースとアレンジで中野さん(中野雅之/BOOM BOOM SATELLITES、THE SPELLBOUND)に今回も入ってもらってますけど、中野さんも同じ意図があったみたいです。現代版のサイケデリックロックができたなという感じ。

サイケデリックロックを意識したのはどうしてなんでしょう?

サイトウ:w.o.d.にとっての1つの目標でありロールモデルとして、Primal Screamの存在がデカくて。『Screamadelica』(1991年)から『XTRMNTR』(2000年)を出すまでにプライマルがやってることって独特やし、ロックバンドとしてもめちゃくちゃカッコよくて最強だと思うんですよ。実際、ケヴィン・シールズ(My Bloody Valentine)とかThe Chemical Brothersと一緒にやったり、マニ(The Stone Roses)が入ってきたりして、メンバー的に最強な時期もあったじゃないですか。ロックバンドとしてカッコよく、面白いことをやりつつ、w.o.d.らしさも出しながら、あらゆるものをごちゃまぜにしていく……そういう意味でもプライマルみたいなサイケデリックをやりたかったし、こういう曲ほど時間をかけてじわじわ浸透していくんじゃないかと思っています。

The Chemical Brothersっぽいなとも思ったんですけど、やっぱりしっくりくるリファレンスはPrimal Screamですね。w.o.d.もロックバンドとしてのアイデンティティを保ちながら、どこまで範囲を広げられるかに挑戦しているんだなと感じました。

サイトウ:「My Generation」で得たものが俺らのもう1つの個性になると思えたのが大きかったかな。後々たぶん、「『エンドレス・リピート』がw.o.d.っぽい曲だね」となっていく気がする。

「エンドレス・リピート」を聴いていると、w.o.d.が歌詞で描いてきた退屈や苦悩が日常の中で繰り返されていくイメージって、今回のような曲調と相性が良いんだなと思いました。そこに対してはどれくらい意識していたんでしょう?

サイトウ:意識的かつ無意識的という感じじゃないですかね。歌詞って、好きな音楽とか映像とか言葉選びとか、感覚的なものが連なって出てくるから、自分としてはすごく自然なものなんです。何回も書いてはw.o.d.の曲として出して、いろんな人に感想をもらってるから、もはや“自分の歌詞”に対して意識的になってる部分もあるとは思うんですけど、もともとはごく自然にやっていたことというか。坂本慎太郎さんが大好きで、すごい曲をいっぱい書いてますけど、そこにはっきりとした何かがあるわけじゃなくて、『空洞です』(ゆらゆら帝国)みたいに、ムードや空気感、曖昧なニュアンスが大事なんだと思うんです。それを自分の知っている言葉でしっくりくるように取捨選択していったら歌詞になってる、というのが一番いい気がしてるので。

なるほど。

サイトウ:変に「こういうことを書くぞ」だけで書いちゃうと、どこかで必ず無理矢理合わせた感じになるから、あまり心地良くないギクシャクした曲になる気がします。やっぱり俺は言葉と音の親和性をめっちゃ気にするから、それを自然に「w.o.d.っぽい」と思ってもらえてる気がしますね。例えば、内容は生活についての歌やけど、曲やサウンドとの親和性次第で、すごくブラックメタルっぽい歌詞になることもあり得るわけじゃないですか。けど、それも言葉や音選びに伴う取捨選択が違うだけであって、俺らの場合は感覚に合わせてやったら勝手に今みたいになっていったという感じ。

感覚的な部分をすごくわかりやすく言語化していただけた気がします。アルバムが出る時にまた答え合わせできればと思いますが、最後に、現時点で『あい』はどんな作品になりそうですか。

サイトウ:2ndアルバム以降ずっとそうなんですけど、“w.o.d.の今”ですね。日常の写真をいっぱい撮っていたら、その時の人生の流れがめっちゃ見えてくるじゃないですか。毎回その瞬間瞬間で作っていったものが自然発生的にアルバムになる感じなので、本当は作った順番通りにそのまま出したいくらい。だから「今のw.o.d.がアルバムとして出ます」って感じかな。

10月を楽しみにしてます。

サイトウ:はい! でも「今とこれからのw.o.d.」なのかもしれない。今回は意識的にチャレンジしてる部分が多いので、どういうアルバムだったのかは後になってからわかるのかも……という気もしてますね。